(23)清盛はどんな悪いことをしたの?

                                     阪本信子 会員
 平家物語における重盛賛美は、歯の浮くような美辞麗句のオンパレードで、とてもこの世の人とは思われません。
 彼は壇ノ浦滅亡の時には既に死んでいて、滅亡についての責任を直接問われない立場にいたからで、もしこのとき生きていたら、生きている人間重盛が描かれていたと思います。
 しかし、容赦ない重盛の攻撃の的になっている清盛の悪業とは一体どんな行為だったのでしょう。
 現代人からみれば政治家として当たり前のことをしただけのことで、それによって損害を蒙った人にとっての悪であったに過ぎません。
 平家を悪の枢軸と非難するのは、かつてはわが世の春を謳歌した貴族たちであり、既得権の侵害を悪と断定しているのです。
 そして、その既得権なるものは皇族、貴族が独占するものであるという前提にたっています。
重盛の言っていることは、まさしく貴族たちの希望であり、作者は自分に替わって重盛に語らせています。
 重盛のいう論理はまず「父清盛の悪行あり」から始まっており、それに至った過程の必然性を論ずることも無く、悪業という一面でしか捉えていませんが、清盛がやったことは平家にとっては悪ではなく、一門を統率する重盛が言うはずもない言葉なのです。
 清盛が悪行を行ったというならば、それは歴史が要求した悪であり、変革期に生きてゆかねばならなかった一政治家の避けられない運命であったのです。
 つまり、作者は時代を俯瞰的に見ることができず、清盛は作者の哲学、思想では推し量れないタイプの巨人であったろうと私は思っています。            (つづく)