(187)勝利者も哀れ!

阪本信子 会員 直実は敦盛の首を斬り、鎧直垂の袖に包もうとした時、腰にさしてある笛一管を見つけました。 延慶本では笛でなく「ひちりき」ですが、笛の方が大衆向けのするモチーフです。 しかし、何れにせよ作者が言いたいのは、これらが直実出家の動機と…

(186) 若者は何故死に急ぐ

阪本信子 会員 敦盛の最期はあまりにも有名で、歌舞伎、能、文楽などのモチーフとして、よく使われています。 関東武者熊谷次郎直実は見るからに身分の高そうな一人の武者をみつけ、「かえさせたまえ」と招いた。 武者は既に100mも海に乗り入れていたのに、…

(185) 撤退上手は戦い上手?

阪本信子 会員 一の谷の合戦で多くの平家公達が死にましたが、「平家物語」の作者は彼らの最期を飾り、鎮魂の言葉としています。 名を残すと一口に言っても、それに現世利益が付随するのは勝ち組の場合で、負ければいかに立派に死のうと、名を残そうと実質的…

(184)  近代にも通用する古典的犯罪

阪本信子 会員 井原西鶴の「日本永代蔵」にこういう話があります。 越前に住む利助は才覚の利く男で、お茶の担ぎ売りをするのにも工夫を凝らし、「えびすの朝茶」と触れ歩くと、縁起がよいと喉の渇かぬ人までも普通なら一服2〜3文のところ、12文も払って買…

(183) 公武合体政権は可能だった

阪本信子 会員 平家は軍事貴族ともよばれ、貴族たちからは異端視されていますが、元を辿れば皇族であり、何代か前には貴族であったはずです。 保元の乱、平治の乱においてはお飾りであったとはいえ、名目的には藤原頼長、藤原信頼ら貴族が大将として戦ってい…

(182) 色眼鏡の貴族観

阪本信子 会員 平家は貴族化したために滅亡したといわれています。 これは貴族を貶めている言葉です。 確かに武力行使を専門職としている武士に比べ、貴族が戦いに向いているとは思われません。 しかし、これは長い武家政権(鎌倉時代〜第二次世界大戦)の間…

(181) 正しきが勝者ならず

阪本信子 会員 勝者が敗者に力の優越を誇るのは仕方がないとしても、道義的優越を誇るのは筋違いです。 正しいから勝ったわけではない。 平盛俊は剛の者として聞こえた男で、個人戦ならば誰にもおくれをとる者ではありませんでした。 それがむざむざと首をと…

(180) カルチュアーの違いが命取り

阪本信子 会員 平家作者は平忠度を平家文化の代表者として、剛勇だけでなく、雅にして教養豊かな理想的人物として書いている。 しかし、一の谷の合戦は平家の敗北に終わり、西の木戸の大将軍忠度は沖なる船に逃れようと馬に乗り、源氏の武士たちの中を少しも…

(179) 三草合戦は一の谷敗北のプロローグ

阪本信子 会員 義仲、頼朝が同族相争う間に、平家は瀬戸内制海権を握り、京都まではあと一歩という福原の地にまで進出しておりました。 頼朝は全勢力を平家討伐へむけ、軍勢を二手に分け、大手の範頼は伊丹、昆陽を経て福原へ、義経は搦め手として丹波路へ向…

(178)「虚虚実実」ならぬ「虚虚虚実」の一の谷合戦

阪本信子 会員 義仲が死に、次なるヒーローは義経です。 そして『平家物語』には平家滅亡に至る合戦話が続きます。 その合戦の中で最も華やか(?)にして、知らぬ人がいないのは一の谷合戦ですが、それについての小説、物語、伝説、エピソードなどが無数に…

(177)  不運のDNA

阪本信子 会員 義仲によって擁立された摂政師家は当然のことながら、罷免され、替って摂政職に就いたのは前の摂政基通でした。 彼は清盛の娘婿でしたが、後白河法皇の寵愛深く、摂政に還任して氏の長者となりました。 しかし、政治の主導権は朝廷でなく、頼…

(176)  死ぬことの意味

阪本信子 会員 『平家物語』は「死の文学」ともいわれますが、義仲の死を初めとして、一の谷合戦、壇ノ浦、平家一族最期の人六代の処刑に至るまで、いろいろな死に様が描かれています。 戦いに臨むとき、武士たちは自分の死を犬死にしない為、はっきり言えば…

(175) 英雄は死に方も英雄らしく

阪本信子 会員 木曽の風雲児義仲は、やはり京の空気の中では生きられませんでした。無知な無骨者として侮られ、追い詰められてゆきます。その彼を再び英雄としたのは、平家物語の「木曽最期」の名文であり、そこに登場している今井兼平なのです。 この部分は…

(174) 「木曽勢奮戦の碑」が正解

阪本信子 会員 源平合戦の花舞台、「宇治川の先陣」は実は無かったことで、作者の創作だったといえば、ウッソーと言いますか、がっかりしますか、それともやっぱりと思いますか。 残念なことにこの話はどの古文書にもない、つまり裏付けは何もない作者のフィ…

(173) 騙すのも才能のうち

阪本信子 会員 「宇治川の先陣」は平家物語を知らない人でもよく知っている胸躍るお話です。 当時の機動力は馬しかありませんでしたし、また、戦場においては馬次第で命にも関わるのですから、武士が良い馬を欲しがるのは当然です。 佐々木高綱は名馬「いけ…

(172) 水着は要らない

阪本信子 会員 北京オリンピックも近つき、スピード社の水着が話題となっています。たかが水着と言うなかれ、世界記録、日本記録続出なのですから、無視するわけにはゆきません。 クーベルタン伯爵が近代オリンピックを初めてギリシャの地に開いて以来、より…

 ◇7月例会のご案内◇

演題 谷崎文学の魅力 講師 藤原智子先生((神戸市会議員、文教経済委員) 芦屋市谷崎潤一郎記念館図録編纂編集実務補佐 谷崎潤一郎研究会会員 日時 平成20年7月6日(日)13:30より15:00頃まで 場所 兵庫県民会館 902号室 (JR・阪神「元町駅」の山側、徒歩7…

(171) 権威無視は大ケガのもと

阪本信子 会員 院の御所法住寺襲撃は義仲にとって、武士相手の戦いと同じで、敵の館、城を攻めて分捕り、殺し、降参させれば戦いに勝ったと思っています。 あっけないほどの勝ち戦で、「法皇になろうか、天皇になろうか、関白になろうか」と有頂天になってい…

(170) 無敵の法皇のはずなのに?

阪本信子 会員 都の人は乞食でも田舎者に優越感をもち意地が悪い、中でもぬきんでているのが、法皇とその軽薄な側近です。 義仲に対する「いじめ」は相当あくどいもので、タカをくくっての追い出し作戦は裏目にでて、窮鼠猫を噛み、義仲は終に後白河法皇の挑…

(169) 信子随筆 言葉は世につれ

阪本信子 会員 古い人間の私にとって、昨今の言葉の乱れは甚だしく、日本文化の崩壊ではないかと危惧しているのですが、同じ考えを持たれている方も多いことでしょう。 日本文化を正確に具現していると信じているNHKのアナウンサーの言葉にさえ、眉をしかめ…

(168) 信子随筆 時代が求める指導者

阪本信子 会員 かつて日本では総理大臣について、その存在理由を論理的に語ったことはありません。 昔、刀匠正宗が極意を譲ったのは弟子の義弘でした。 その選別法は4人の候補者に鍛えさせた刀を流れに立て、上流から藁屑を流すというもので、弟子の村正の…

(167) 「厄病神、取り付く相手を誤る」

阪本信子 会員 女性を評するに「あげまん」というのがあります。男が自分の能力不足を棚に上げて、自分の不遇は妻が「あげまん」でなかったせいだという、実に身勝手な屁理屈に使われる言葉で、いうなれば「あげまん」とは「福の神」と同義語です。 さしずめ…

(166) 信子随筆 国家の威信は守られたか

阪本信子 会員 この度の聖火リレーにしても、沿道を埋める中国国旗をみて、善意に考えれば、彼らの愛国心の発揚ともとれますが、見物に訪れた人が肝心の聖火を見られなかった、と聞くとオリンピック狂想曲に踊らされている彼らに国際的な相互理解の難しさを…

(165) 信子随筆 オリンピックは誰のため

阪本信子 会員 日々物議をかもしている聖火リレーのテレビ画面をみながら、果たして聖火リレーはどうしてもやらねばならない事なのか、また「平和の祭典」という空々しい言葉で飾られているオリンピック自体、本当に必要なのか考えています。 過去を遡ってみ…

(164) 信子随筆 氏より育ち

阪本信子 会員 義仲が都に入った時、都人は熱狂的に救世主の如く迎えましたが、それが厄病神になるのはアットいう間でした。 「平家物語」では義仲の野卑にして無知なるをあざ笑う記事が沢山載せられていますが、その最たるものは「猫間」の章段で、訪れた猫…

(163) 信子随筆 親孝行は死語?

阪本信子 会員 戦後、忠孝のうち「忠」は簡単に消滅しました。 「孝」に関して、教育家、文化人たちは親を大事にするというのは、骨肉の情から自然に発生するもので、教えたり強要するものではないと主張しました。 強いるものではないと言われ、お蔭様でこ…

(162) 信子随筆 オバカさん番組はもう沢山

阪本信子 会員 昭和二十年代は週刊朝日の全盛時代で、毎週何十万部も売れていました。 その頃の編集長は「読者を旧制高等女学校二年程度の教養を持ち、主婦経験十年ほどのレベルと考え、彼らが理解できない記事は全て没にせよ」と指示したそうです。 その頃…

 ◇5月例会のご案内◇

演題 楠木正成と赤松円心のかゝわり 日時 平成20年5月4日(日)13:30より15:00頃まで 場所 兵庫県民会館 304号室 (JR・阪神「元町駅」の山側、徒歩7分。地下鉄「県庁前駅」1-2出口) 参加費 500円(申込み不要・自由参加) 主催 兵庫歴史研究会 問合せ先 …

(2008/06/01) 6月探訪会のご案内

■「福井の歴史を探訪」 福井城址・北ノ庄城址・西光寺(勝家とお市)・藤島神社(新田義貞)・一乗谷朝倉氏遺跡 主催 兵庫歴史研究会 探訪日 平成20年6月1日(日)、雨天決行 集合場所 JR三ノ宮駅東300m 観光バス発着所 集合時間 午前7時45分集合、8時00…

(161) 信子随筆 末法の世は虚言にあらず

阪本信子 会員 「誰か人をでも殺してやりたいほどの暑さだった。季節が狂ってしまっている」。 1970年に発表された石原慎太郎の長編小説「化石の森」は、こんな言葉で始まっている。 同氏の「太陽の季節」もそうでしたが、同世代ながらあまりにも激越な表現…