(178)「虚虚実実」ならぬ「虚虚虚実」の一の谷合戦

                         阪本信子 会員
 義仲が死に、次なるヒーローは義経です。
 そして『平家物語』には平家滅亡に至る合戦話が続きます。
 その合戦の中で最も華やか(?)にして、知らぬ人がいないのは一の谷合戦ですが、それについての小説、物語、伝説、エピソードなどが無数にあるというのは当然の成り行きです。
 しかし、これらについて、一々確実な裏づけがないとか、証拠となる決定的な文献、古文書がないと切り捨てていったら、殆ど何も残らないと言って良いでしょう。
 従って不確定な一の谷合戦については、想像、推察の余地が大きく、喧々諤々の論議がかわされるのも、これまた当然のことです。
 特に主人公義経に関しては確実な歴史資料は殆どないに等しく、彼について何か話そうとすれば、物語、伝承に頼らざるを得ない状況で、虚構に満ちた人物です。だから人々は好みの義経像を描くことができるのです。
 一の谷の位置についても、実際にこの地を知らない人の聞き書きとか、推察の域を出ない紛らわしい記述が多々あり、現在神戸に住んでいる人からみれば、鉄拐山須磨説はおかしいと思うはずです。
 また平家方の兵員の数から考えれば、須磨までの長い海岸線に警備の兵を配置するのは無理でしょう。
 何をしゃべっても「見てきたような嘘をいう」一の谷合戦になってしまうかもしれませんが、人は見たいように歴史を見るものです。 (つづく)