(143) 朝敵はそんなに悪いの?

                              阪本信子 会員
 残念ながら、平家の貴族化は進んでおり、平治の乱以来の平家繁栄の中で、戦いの経験者は少なくなり、生まれながらに貴族文化の中で育ち、文化教養面では平均水準以上の優れた人物が輩出していたと思います。
 貴族たちは文の占有者は自分達だと考えていました。だから平家は旧体制からの抵抗を少なくする為、貴族が価値基準としている「みやび」に親しんだのですが、「ミイラとりがミイラになった」の感があります。
 平和というのは罪作りなもので、現在の日本の平和ボケが解消されるのも相当の年月を必要とするでしょう。
 確かに平和は人類の理想であり、武力行使は無いに越したことはありませんが、平家にとってはまだまだ平和を享受できる時期ではありませんでした。
 それを知りつつも、平家はいつしか貴族文化のとりこになり、いつでも家族演奏会とか、歌会が開ける芸達者、教養人ぞろいのセレブでした。
 文学史にその名はありませんが、この時代の文学は明らかに平家文学といってもよい内容で、勿論主役は平家の公達です。
 千載和歌集の「詠み人知らず」は殆ど平家一門の作品だったかもしれません。朝敵になるということは文化の世界から抹殺されても仕方の無い存在なのでしょうか。良いものの値打ちは朝敵だろうが、忠臣だろうが変わらないものだと思うのですが。      (つづく)