(130) 信子随筆 「白髪三千丈」

                              阪本信子 会員
 中国的言い回しに「白髪三千丈」なる表現があります。出典は李白の『秋浦歌』で楊貴妃の側近により長安を追われ、はるか長安を想い大楼山上より眼下の秋浦江を臨んで読んだもので、「愁いによって斯くの如し」と続きます。
 日本人の控えめ大好きからみれば、でたらめ、針小棒大、大風呂敷的表現であり、大陸的中国人気質の特徴の一つと考えられていました。
 しかし、これらの言葉をよくよく検討してみると、決して過剰表現ではなく、場合によっては遠慮気味な言い方なのです。
 秋浦江は全長約20kmですが、この頃の単位から計算すれば三千丈は約9kmですから、白髪六千四百丈というのが正確な言い方で、三千丈では控え過ぎの数字です。
 杜甫の『斗詩百篇』にある「斗酒なお辞せず」についても、一斗以上も酒が飲めるものかと疑わしいのですが、この頃の単位は一斗=6㍑弱で、約三升の酒を飲んで百篇の詩を作ったということです。
 おまけにこの頃朝廷で作られていた「馬奶酒」はアルコール度1%で、ビールの水割りくらいのアルコール度ですから3㍑といっても、酒呑みにとっては水を飲むのと同じ位でしょう。
 「一日千秋」は日本製で本当は「一日三秋」であり、「一潟千里」は「一潟百里」で日本人のほうが「大げさ表現大好き人種」ではないでしょうか。(つづく)