(126) 信子随筆 「もしも」

                              阪本信子 会員
 古文書を学び始めて「もしもコピー機があったなら、こんな苦労はしないだろうに」と思うことがしばしばです。
公文書もコピー機がない時代ですから、いちいち写しをとり、それが現在でも残っていて、古文書のテキストとして使われています。
 ところが、筆写するのは人間ですから、写し間違いもあれば、書く人の癖によって、判読不能の文字もあります。
 こんな時コピー機やパソコンは大したものだと思います。
 最近クスクス笑いながら読んだ本に、新潮新書「もしも義経にケータイがあったなら」(鈴木輝一朗著)があります。
 著者は現代人事理論で義経を解析していますが、もし義経が現代に生きていて企業戦士の一員であったなら、一発屋、一匹狼的ギャンブラー義経はとても英雄にはなり得なかったでしょう。ひょっとしたら一番にリストラ対象になっていたかも知れません。
 「もしもし兄ちゃん」と電話をかけていたら、兄弟の関係は好転していたでしょうか。
 やはり、英雄はその時代が求め、誕生させるものです。
 しかし、たとえ現代では出世昇進には縁のない人物だったとしても、私は彼の人間的魅力はいつの時代にも通用するものであり、まぎれもなく英雄であると断言するものです。 (つづく)