(122) 信子随筆 「300日問題は平安時代にはあり得なかった」

                              阪本信子 会員
 民法の規定「離婚後300日以内に生まれた子は、実の父ではなくとも母親の前夫の戸籍に入れなくてはならない」の改定について、フランスでは考えられないことと竹下節子さんは評論されます。フランスの夫と妻は男と女の競争原理の中で生きており、この緊張と努力を「ご苦労様」と見るか、「羨ましい」と見るかは人夫々です。
 根本的に女の人権という点では大きな違いがありますが、平安時代の貴族の女性もそうでした。
 はるか昔、平安時代の貴族社会は母子家庭だらけでした。
 血液検査があるわけでなく、適当な男を父だと言えば世間はそれを受け入れ、たとえ父が誰か分からなくても、今ほど深刻ではありませんでした。
 貴族社会では家、土地は娘が相続し、生んだ子供は乳母が育て、五月蝿い姑や舅もいない。離婚歴が何度あろうと、子供が何人いようとも、それを受け入れる世間があり、男がいる。
 こんな状況の中では同時進行で何人の男を通わせようと、不倫と騒がれることはない。そもそも「不倫」認識が存在しないのですから。
 ただし、夫にも妻以外との恋愛、交際が許されていたということは、「油断をすれば、相手を他人にとられてしまう」危険があるということです。常に自分を磨いていないと棄てられる。
 賞味期限の過ぎた女にとって、実力主義の愛の世界は実に厳しく、疲れるものだったでしょうね。(つづく)