(120) 信子随筆 「漢字の手紙」

                              阪本信子 会員
 意味不明の論文などを読むコツは、自分宛の手紙だと思って読むことだそうです。
 同じく、私が文章を書くときは皆に手紙を書くような気持で書いています。そうすると難しい内容も易しい言葉で書けるものです。
 しかし、携帯電話がなくては生きて行けないような世の中になり、文章といえば単語の羅列しか出来ない人々が多くなっているのは、嘆かわしいものです。(とは古い女の愚痴です)
 かな文字は古典文学ではお馴染みですが、現代、漢字の少ない文章が多いことに気が付きます。義務教育を終えた社会人なら、少しは漢字を入れた方が分かり易いとは思いませんか。(しかし、当て字の多いのも困りますが。)
 漢字にはそれ自体に意味があり、また読み易いものです。
 「源氏物語」原典のカナだけの難解さとくらべ、「平家物語」の和漢混淆文は辞書なしに読める古典文学として一押しです。
 また昔の人ならば、これくらいの文章は常識だったでしょうが、明治十年西南の役の時、山県有朋西郷隆盛に送った降伏の勧告状はその心をよく伝える名文と思います。
 「思うに君の心事を知るものひとり有朋のみにあらざらん。(略)書に対して涕涙雨の如く、言わんと欲することをつく悉す能わず。君少しく有朋が情懐の苦を察せよ」
 こんなラブレターを貰いたいものです。 (つづく)