(103) 平家株の下落とどまらず

                              阪本信子 会員
 公卿会議において宗盛が求めた源氏追討の議決は、平家の得になることは指一本動かしたくない法皇たちの是認する所ではありませんでした。
 それどころか、源氏攻撃を当分の間中止して彼らの出方を見るというのですから、そこには「軍事部門担当を平家に独占させず、源氏にも分けたい」という下心が見え見えです。
 これを平家が受けいれる筈はありません。
 宗盛はここにおいて唯一の軍事担当の地位を保持するためには、朝廷議決を無視して追討路線をすすめ、勝つ意外にはないと決心しました。
 膝を屈して父の非礼を詫び、法皇に全権をお返しするとまで申し出た屈辱的捨て身の作戦は完全に失敗しました。
 それどころか、今迄は何となく分かっていたけれど、はっきりと表明されなかった法皇のお心が、源氏待望にあることが明確になり、平家支持者の腰を引かせ、反平家を表明する名分を与えるという逆効果をもたらしました。
 平家に策士が無かったわけではないでしょうが、海千山千の後白河法皇です。宗盛が何を目論んでいるのか、それくらいのことが読めない人ではありませんし、平家嫌いの彼が平家の求めに唯々諾々と応ずる筈もありませんでした。
 若し、このとき高倉上皇ご在世ならば、一も二もなく議決されたでしょう。
 清盛のみならず高倉上皇を失った平家は、両翼を奪われた鳥のように奈落への道を辿ります。 (つづく)