(47)本当の被害者は鵺

                                     阪本信子 会員
 保元、平治の乱以降は武士の力が見直され、武も評価の対象となり、文武両道の人物が好ましい人物となりました。
 頼政の仕事は大内裏守護という、これはれっきとした武士の本業です。しかし、頼政の歌は16の勅撰集に58首が載せられたほどで、当時の宮廷歌壇では一目おかれていました。
 その彼が以仁王に与みしたのです。頼政は作者の好みの人物で、文武両道に優れた立派な武将であったことを証明するために考え出されたのが、「鵺」というお話なのです。
 怪物退治は庶民に分かりやすく、英雄物語にはよく使われる手法で、源頼光大江山の鬼退治、田原藤太秀郷のムカデ退治、岩見重太郎のヒヒ退治等そうです。
 近衛天皇は病身、神経質で不眠症だったらしくて、夜な夜な黒雲が御殿の上を覆うと脅えられた。
 命を受けて頼政は弓をつがえ、黒雲の中の怪しき姿をめがけて射た。見事命中し、落ちてきたのは頭が猿、身体は狸、尾は蛇、手足は虎という実にグロテスクな怪物で、天皇はそれ以後快眠されたそうです。
 しかし、気の毒なのは鵺です。
 謡曲「鵺」は被害者としての鵺が登場し、「自分は何もしていないのに殺され、死骸は海に流され、地獄の底に落ちた。」と語り、通りすがりの坊様に救いを求め「頼政は名をあげる一方、自分は人から嫌われ殺されるという不合理」を訴えています。
 現代「鵺のような奴」といえば得体の知れないという否定的な意味に使われているのですから、返す返すも気の毒な鵺です。(つづく)