(43)人は昔も今も占いに弱い

                                     阪本信子 会員
 歴史に残る予言、占いは当たった例の記録が圧倒的に多いのですが、当たらなかった例として以仁王の決断を促した少納言伊長の相見があります。
 人は迷った時、何かに頼ろうとします。
 平家に対する不満、憎しみは昂じているが、さりとて平家討滅の兵を挙げるには未だためらいがある。
 こんな時、人相見の名人と噂に高い少納言伊長から「即位される相をしていらっしゃいますから、お諦めになるべきではありません」と言われれば、もしかして、ひょっとしたらとグラリと傾くかもしれません。
 平家作者はついうかうかとその気になった以仁王を軽率と書いていますが、現代と違って占い、予言によって意思決定を促される可能性は高く、うがった言い方をすれば、占い師、人相見、陰陽師などを操作することによって、ある特定の人物をリモートコントロールできます。
 一体、誰の意思がそこに働いていたのでしょうか。
 伊長の祖母は六条顕季の娘で、その兄弟の娘が以仁王の乳母であったところから以仁王との拘わりが考えられ、また頼政の従兄弟がその乳母子宗信の従兄弟の妻の父という、頼政とのかかわりはややこしいが繋がりはある。
 しかし、天皇になれる相があるという大胆にして恐ろしい予言を言えるのは余程の裏づけがない限り出来るものではありません。私にはここに後白河法皇の影がチラリと見えるのです。
 とは言え、伊長は明らかに以仁王の変の責任の一端を担うべきであり、南都に逃げていたところを逮捕され、備中へ流されています。
 相見の名人なのに、どうして彼は自分の運命はわからなかったのでしょうかね。(つづく)