(34)重盛の死

                                     阪本信子 会員
 「平家物語」によれば42歳の重盛の死は平家の末路を見たくないから早く死なせてくれ、と神仏に願っての自殺願望的な死であり、医者の治療を天命だと断っているのは現代風にいえば尊厳死かもしれません。
 しかし、だからといって願望通りに死なせる神仏もどうかと思いますが、重盛にしても平家の棟梁として神仏に祈るならば、平家の末路を見たくないから死なせてくれと言う前に、自分の命と引き換えに平家の存続、繁栄を願うのが重盛の責務ではないでしょうか。
もし本当に「平家物語」にいう通りならば平家バッシングの中での戦線離脱であり、一門への裏切りでしょう。 
 「平家物語」での重盛の死に方は偽善そのもので、現代人の望む「苦しむ期間も短く、人にあまり迷惑をかけない」死に方とは程遠く、胃の痛みに苦しみながら、多くの人を動員して、極楽往生を願って、あらゆる手段を尽くしている重盛の死は、仏教の広告塔として当時の貴族が望む理想の死に方なのです。
 当時は浄土フィーバーが世を席捲しており、精舎を建て万灯をかかげ、488人の美女を集め念仏を唱えさせるというのは極楽浄土を具現したバーチャルリァリティです。
おまけに永代供養のために宋の育王山へ金を送るなど、後生の安楽に異常なほどの執着心をもっています。
 残念ながらこの頃育王山は北方民族金の領土になっており、重盛の願いは叶えられておりませんが、現在日本にある重盛の墓と称する場所では供養が行われているのですから、もって重盛は瞑すべきでしょう。
 でも私は地獄に落ちても良いから、清盛のように1週間の昏睡の後死ぬ方を選びます。
(つづく)