(28)悲劇大好き日本人向きヒーローは俊寛

                                     阪本信子 会員
 平家の歴史の中で、治承のクーデターといわれる事件の方が鹿ノ谷事件より重大事件ではないかと思うのですが、平家作者は鹿の谷事件には治承の政変の5倍に近い量のページを費やしています。
 これは鹿の谷事件で逮捕された、法皇の側近グループ一人一人の追跡記事を書いているからで、間接的に清盛悪行による平家滅亡の必然性を示しています。
 しかし、作者の異常とも見える入れ込みのために歴史離れの部分も多く、純粋に物語として読んだほうが面白いかもしれません。
 この部分は全体としては聞くものの涙に訴える内容で、俊寛の話はそのハイライトです。実際に彼は脇役中の脇役に過ぎないにも関わらず、鹿の谷事件の主役かと思われるような扱いがなされており、平家物語も鹿の谷事件も知らないが、俊寛は知っているという人が大勢います。後世、能、歌舞伎、文学、戯曲などのモチーフとして用いられているというのがその原因です。
 彼一人が鬼界が島に残されたという悲劇性は、何時の時代にも通ずるものですが、これも作者独特の清盛悪行を強調するための設定で、中宮徳子の皇子安産を願っての大赦なのに、一人残してはその恨みは三分の一になるどころか、何倍にも増幅されるはずです。赦免使が島に到着した時には既に死んでいたと私は考えています。             (つづく)