(27) 懲りない男、成親

                                     阪本信子 会員
 平家物語において、鹿の谷事件は反平家運動を政治的な視点でなく、お涙頂戴の個人的感傷話として扱っています。
 こういう話は得てして涙にごまかされ、事件の本質は見のがされ易いものです。
 この事件の当事者は何れも中央から疎外され、政治哲学も能力もない、革命などもっての外の不満分子の集りでした。
 それを平家討伐に結び付け、自分たちの地位向上を図ろうとしたのです。
 首謀者藤原成親は重盛にとって義弟で、息子維盛には舅でもあり、平治の乱以来その縁によって何度も命を助けられながら、次々に問題を起す「懲りない」性格で、重盛は彼にとって尻拭いをしてくれる有難い存在の筈でした。
 しかし、人間というものは必ずしも他人の親切に感謝するものではなく、時にはその人に対して精神的負担を感ずるあまり憎むようになる場合があるものです。
 特に成親の場合は、父家成が引き立ててやった平家という視点でしか平家を見ていないのですから、恩を懸けられれば懸けられるほど精神的負担は増し、恩と感じなくなり、屈辱とさえ思っていたのでしょう。
 しかし、成親をかばったため、この鹿の谷事件以来、平家一門の内において重盛系は弱体化し、宗盛系に圧倒される力関係となり、重盛の死によって完全に宗盛が主流になるのです。(つづく)