(15) 平家繁栄の原因
阪本信子 会員
現代においてはある人が驚異的な出世をした時、本人の能力、努力、そして運のよさを考えるものです。
しかし、昔の人の思考回路では、特にその出世を好意的に迎えたくない人物の場合、そういう論理的な結論には至りません。
清盛の場合がそうで、清盛が目を見張るほどの出世をしたのは、本人の力ではなく神仏の御加護とか前世の因縁など人力の及ばない所に起因があったと「平家物語」は書いています。
それを解き明かし、納得させるために多くの話が作られました。
その一つが「鱸」(すずき)の章段で、彼がまだ安芸守であった頃、伊勢の海から熊野へ詣でたとき、鱸が船に飛び込んできました。
清盛は精進潔斎中でしたが、これを料理して家子郎党に食べさせました。ところがこの後良いことばかりが続き、平家は竜の昇るがごとき繁栄を遂げたのです。
つまり、熊野権現の御利生によって平家の繁栄があったのであり、作者は清盛の能力、努力によるとは言いたくなかったのです。
しかし、これも結果に繁栄があったから言えることです。もしうまくゆかなかったら、熊野参詣の途中なのに、船に飛び込んできた魚を助けるどころか、殺生して食べてしまったからだと言われるでしょう。同じ事をしても結果によって違った判断が下されるのですから、物は考えようです。
最後まで無条件で面倒を見てくれる神様はいないのですから、所詮は本人次第ということです。
(つづく)