(7)平家の幸運

                                 阪本信子 会員
http://d.hatena.ne.jp/hyogorekiken/20050314 からの続き
 平家物語は平家滅亡のノンフィクションであり、ドキュメントドラマの台本です。
 しかし、平家滅亡の裏には勝利者源氏の台頭があり、繁栄があるはずなのに、それについては書いていません。
 日本人の悲劇大好きの体質もありますが、源氏にはダーティなイメージがつきまとっているからなのです。
 亡んだ当事者としては汚辱にまみれても繁栄したいと思っていたかもしれませんが、「平家の亡びには美あり、源氏の亡びに美なし」とよくいわれます。
 高山樗牛は『平家雑感』のなかで、源氏に対しては「源氏の興亡の如き、東夷の品劣れるいうばかりなし」とこき下ろし、「願わくば源氏となりて興らむよりは、むしろ平家となりて亡びなむ」と感情過多な七五調の美文で平家を絶賛しています。
 しかし、実は同族の血にまみれた源氏も同情すべき悲劇の一族で、かつて義家の頃余りにも強大になってしまった源氏を牽制するための上皇天皇、貴族のいじめの策謀にはまって、作為的に同族内の対立が作られた場合が多く、源氏の不運は「台頭の時期が早すぎた」の一語に尽きます。
 その蔭で漁夫の利を得たのが平家で、その運のよさがツキを呼び繁栄をもたらしたのです。しかし、運も実力の内とするならば、時勢を読んだ平家の繁栄はやはり実力によるものでしょう。