(6) 建春門院 滋子 (3/3)

                                 阪本信子 会員
http://d.hatena.ne.jp/hyogorekiken/20050306 からの続き
 後白河上皇を手のうちに握った彼女のど根性を示すエピソードが定家の姉の書いた「健寿御前日記」(「たまきはる」)にあります。
 息子の高倉天皇が即位して、最初の朝覲の行幸で彼女の所を訪れた時、以前には彼女の上役だった上臈女房が「このめでたさを如何思し召されますか」と聞くと、彼女は平然として「前世からの約束だから何とも思わない」と答えています。
 優等生的に答えるならば、「これも皆様の御蔭です」とか「上皇様のご恩を有難く思っています」「不束な私にとって身に余る光栄です」というべきでしょう。現代でも何らかの賞賛を与えられた方々のご挨拶の言葉はこのレベルで、それが世間の反発も買わず、上手に世渡りしてゆく知恵なのです。
 それをあの時代に「私は当然こうなる運命だったのよ。」となるべくしてなったといわれては、聞くほうも呆気にとられ、反感を持ったかもしれませんが、これ位の度胸と根性、自信がなくては平家繁栄の糸口を開くことはできなかったでしょう。
 しかし、彼女の言葉は人間の運命は全て前世の因縁とする仏教的思想が定着していた時代だから通用したのであり、現代ではあまり効果的な言葉ではないことを申し添えておきます。
http://d.hatena.ne.jp/hyogorekiken/20050321 へ続く