『平家物語』の世界へどうぞ

平家物語』の世界へどうぞ                坂本信子
(1)序曲
 連想ゲームではありませんが、「平家」という言葉から連想されるものといえば、多くの人は「源氏」と答えます。しかし、『平家物語』を知る人は「無常」とか「滅びの美」と答えるでしょう。
 『平家物語』」といえばかの有名な冒頭の一節、「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。奢れる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。」には、『平家物語』の性格の一つである仏教的世界観が盛り込まれています。
 即ち「無常」とか「滅びの美」はこの一節の強力なインパクトによるものなのです。これを言葉通りに諸行無常、盛者必衰の厭世的無常観、極楽浄土を求める往生思想といえば簡単ですが、何故この時代にそのような思想が世論として大きな位置を占めていたかという説明になると、はるか遡って仏教受容の変遷とか、政治の形の変化、幾多の戦乱にもおよび、史学はいうに及ばず、経済、政治、心理、哲学にまで広げなくてはなりません。
 私の『平家物語』観は単に文章の美しさに魅せられての文学的視野からだけでなく、前述のように社会学的な解釈が必要と思うのです。
 戦前、歴史は道徳教育の一環として、個人中心主義で平家は天皇をないがしろにした逆賊であり、その張本人たる清盛は悪逆非道、天人ともに許されざる大悪人であると教えました。
 戦後になって、歴史は客観的に見られるようになり、加えて小説、テレビなどに具現された清盛は優れた政治家として、また一時代を画した英雄として魅力ある人物に書かれています。
 時あたかも摂関政治から院政へそして武家政治へと、日本の歴史上特筆すべき激動期に平家は重要な舞台回しを果たしました。
 平家は瞬時にして滅びましたが、この興亡は花々しく悲しいもので、武家政治への前奏曲であったのか、貴族政治の最後を奏でるものだったのか、何れにせよ平家政権のもつ歴史的役割は軽くはありません。
 世にいう「平家の栄華」、そして一族をあげて西海の夕日とともに滅び去った一幕を『平家物語』をベースにして、激動の時代の政治的、思想的背景を探りながら、人間の運命の必然性を直視したいと思っております。
 阪本信子の『平家物語』をお聞き下さい。

日時 毎月第3土曜日(12月を除く)午後1時30分〜3時
場所 兵庫県民会館 1202号室
神戸市営地下鉄「県庁前」下車 
会費 500円 (申込不要、自由参加)
主催 兵庫歴史研究会