(132) 信子随筆 「前例」

                              阪本信子 会員
 応仁の乱の最中に山名宗全はある身分の高い貴族に「貴方方公卿が何事につけ先例先例というのは間違っている。
 先例というのは平安時代には平安時代の例があり、鎌倉時代には鎌倉時代の先例があるように、もともと時代と共に変化するものです。
 それなのに貴方たちは昔の例ばかりを大切にして、時世を知ろうとしないから武家に天下を奪われたではないか、もし「前例」に何らかの力があるなら、私のような匹夫は貴方たちと対等に話が出来るはずはないでしょう」といった。
 つまり、その時代に適した先例があり、貴族たちが金科玉条としている先例は平安王朝貴族全盛時代の 苔の生えたそれであり、現実をしっかり見よというのです。
 当たり前のことなのに、日本では案外先例の呪縛は深刻で、第二次大戦は日露戦争の亜流であり、官僚政治は明治維新以来の先例から解き放たれていないといえます。
 しかし現在、自然界でも人間社会でも前例のない事象が次々に起こっています。地球温暖化民主党の躍進、身内殺害、ごまかしが罷り通っている政界、企業などなど。
 今、新しい前例を作り上げる必要があるのですが、日本のアイデンティティを失うことなく品格あるものでなくてはなりませんが、それには国民の品格が問われるところです。
 差し当たって気になるのは、朝青竜事件はどんな前例になるかです。(つづく)