(98)カリスマ指導者の悩み

                              阪本信子 会員
 清盛の死によって平家の没落は坂道を転がるようにとめることはできませんでした。
 歴史の中で一代に名をなした英雄をみてみると、秀吉が死ぬと豊臣家はお先真っ暗。信長も本能寺で嫡男信忠も同時に死ぬと織田家は一貫の終わりです。
 武田信玄は良かれと思って組織したブレーン達に息子勝頼が潰されるなど、これも信玄の欠陥策です。
 このようにカリスマ性のある指導者一人に支えられている家は、その人が死ぬと無残に崩れてゆく例がよく見られます。
 平家も重盛に先立たれ、今清盛一人の采配によって動いているのですから、清盛が死ぬとジ・エンドです。
 清盛の誤算は自分の死期を知らなかったことである、といえば人間全てに共通する誤算なのですが、清盛の場合、特にそれを切実に感じていたでしょう。
 彼は傾きかけた一門を復活させる為、還都し近江源氏と手を結ぶ寺社勢力を徹底的に殲滅しようとしました。これについてはまだ期が熟しておらず、政教分離は信長に俟たねばなりませんが、当時の常識から考えればできないことでした。
 一門存続のためには鬼にもなろうと決断した清盛が、四面楚歌の中で死なねば成らぬ苦悶は、肉体より精神的な地獄の様相を呈していただろうと哀れでなりません。   (つづく)