三木の形紙

                             坂本信子 会員
 昨今は街でも着物姿が見受けられるようになりました。
 明治、大正の古い着物を現代風に着こなしている若い女性を見ると、やや復権したかのような気配もみえますが、殆どの人は完成した製品の染め上がり、織りあがったものにのみ関心を持ち、それまでにどのような工程を辿ったのか知らないし、知ろうともしません。
 例えば、江戸の着物文化の粋といわれる江戸小紋は、型紙によって染められており、一寸四方の紙に八百~千粒もの彫りが施されて、わが国の染色史上、いや世界的にも美の極致といわれています。
 しかし、その染型紙の彫り師の腕を百%生かせるのは上質の地紙であり、最終的にはその型紙に糊置きする職人の技術が問われるのです。
 つまり、一枚の着物は多くの優秀な技術が駆使されるプロセスの結実として生まれているのです。
 そして、このうちの一工程としての型紙技術は他の工程に消滅因子が生じた時、共に衰微してゆく運命には逆らえず、衣生活の変化、利潤追求の前に今や伝統芸術として存在する道が残されているのみです。  
 私がこの染型紙を再認識したのは、あるきっかけでした。

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