(182) 色眼鏡の貴族観

                         阪本信子 会員
 平家は貴族化したために滅亡したといわれています。
 これは貴族を貶めている言葉です。
 確かに武力行使を専門職としている武士に比べ、貴族が戦いに向いているとは思われません。
 しかし、これは長い武家政権鎌倉時代第二次世界大戦)の間に培われ、多くの日本人に影響を与えた考え方です。
 特に江戸時代の国学者は公家政権を批判し、武家政権が登場したのは正当であり必然であると評価しました。
 新井白石も「読史余論」に公家は国家の害毒であるとまで書いています。
 第二次大戦の敗北によってこの考えは低調になったとはいえ、現在でもわずかに残っています。
 例えばテレビで登場する公家の多くは弱々しい癖に、陰険で薄気味悪く、メーキャップも王朝風で、現代の美意識から見れば化け物のような風貌にしています。
 腐敗した貴族支配のもとで、虐げられていた武士が苦難の末に立ち上がり、武家政権を打ち立てたという設定です。
 そこには武士は不正をしない清廉潔白という幻想があり、それが軍部の独走を許し、悲惨な近代戦争をひきおこしたのかもしれません。
 武士は潔く、貴族は陰険というイメージで「平家物語」を読むのは大いなる誤解で、人いろいろです。
 しかし、清盛を「武士そのもの」と力説する私は、やはり貴族に偏見をもっているのかもしれません。(つづく)